TCGまいログカフェにようこそ! 第5話:冴えないデッキの鍛え方 Fes③

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朝の光が眩しい。

寝惚け眼を擦りながらいつもと違う道を歩く。


まい「眠すぎ…。」

シフォン「シャキッとしなさいですの。」

まい「昨日夜遅くまで作業しすぎて…。」

シフォン「完全に自業自得じゃないですの。」

 

周りを見ると既に多くの人が同じ方向に向かって歩いている。

 

すぅ「でもやっぱり私も眠れませんでしたよ。ドキドキしちゃって…。」

まい「だよねー、部屋の中に充満する着色用の気体でいつ意識を失うかのハラハラ感とか凄くって。」

すぅ「ちょっとまって、オーナー話全然噛み合ってないから!?」

 

それシンナーじゃないの!?

 

シフォン「いつも通りですわね…。」

 

当然といえば当然、今日は遂に迎舞祭当日。

多くの人が迎舞大学の学祭の為に向かっている。

ビラの件以降は目立った動きはなく、開催は続行。不安の声は上がっていたが、とりあえずは問題ないとのことだった。

キャンパスのエントランスに入る。

 

まい「……これ、大学?」

 

大きく吹き抜けたスキップフロア

明るく陽の刺す巨大な窓ガラス、見るからに綺麗な空間が広がっている。本当に大学なのかと思うくらいだ。

 

シフォン「改めて見るとなかなか良く出来てますの。」

まい「いるのが場違いになってきた…帰っていい?」

すぅ「ダメですから。」

 

シフォンと私は既に昨日が準備日ということでキャンパスに入らせてもらって準備をしていたんだけど、やっぱり最初の感想はほとんど同じだった。

オーナーから指示された当日の備品関係を運送業者に依頼して、キャンパスに届けてもらっている。

 

シフォン「開催は9時からだから、あまり時間もありませんわ。すぐに取り掛かる準備をしましょう。」

すぅ「そうだね。」

 

エスカレーターに乗り三階へ、その後教室の303号室に入る。

 

シフォン「まい、というわけでアレをさっさと組み上げちゃってちょうだい。」

 

既に昨日二人で机を並べ、20人近くが決闘ができるようにスペースを作っている。

黒板にはチョークで『迎舞祭出張版:TCGまいログカフェへようこそ!!』の文字が踊っている。

テレビには以前放送された葉月ちゃんとのライブデュエルの様子を流すようにしてあり、それ以外では普段のカフェの様子を動画に撮ったものも流している。

シフォンが指差したのは直線とカーブの束の山、グレーの他にも赤や白の束がある。

何かと言うと…、

 

シフォン「ミニ四駆のコースは流石に私も良くわかってないですし、態々パンフレットに載せた以上、なかったら大問題ですわ。」

まい「(´・ω・`)」

すぅ「あはは…。」

 

とぼとぼと言った感じにコースを組み始めるまい。後1時間半程しかないけどほんとに組み上がるのかな…?

 

シフォン「すぅはコーヒーメーカーの準備をお願いしますわ、カードゲーム関連の方は大丈夫ですのね?」

すぅ「大丈夫だよ。貸出デッキもちゃんと置いたし。」

シフォン「あとは菓子類を並べて…ですわね。」

円華「やっはろー。みんな、準備の方はどうだい?」

 

しばらくしてから円華さんが教室に顔を出してきた。

 

すぅ「円華さん、おはようございます。」

理葉「おはようございます。」

 

円華さんはいつもどおりの格好で、首から運営の札を下げている。

理葉さんは…、

 

シフォン「綺麗ですわね。」

すぅ「……。」

理葉「…恥ずかしいからあんまり好きじゃないんだけどなぁ。」

 

思わず見惚れてしまうような、黒のドレスを身に纏っていた。

艶やかなうなじが同じ女性相手であっても、より一層色気を感じさせる。

 

理葉「学祭開始の挨拶と、今日のメインイベント用の服なのよ…。ほんと皆してこんな服着せたがるし、なんだかなーって…。」

円華「まあまあ、実際君が適役だし、イベントは華やかな方がいいじゃないか。」

理葉「………。」

 

むう、とふてくされた表情をする理葉さん。

ちょっと可愛い。

次の瞬間、なぜか背中に圧のようなものを感じた。

 

すぅ「……?」

 

ジリジリと焦すようなプレッシャー。

後ろを振り返ると、フードを被った少女がこちらを睨んでいる。

そして、フードから零れる髪とヘッドホンには見覚えしかない。

 

すぅ「…えーっと、葉月ちゃん?」

葉月「………やっぱりおっきい方が好きなんだ。」

 

既に泣きそうな目をしている。

よほど理葉さんのスタイルに恨みでもあるんだろうか…、頭から激突したことを相当根に持っているみたいだ。

私もほとんど無いけど…。

 

シフォン「あら葉月ちゃん、ブースはまだやってませんわよ?」

葉月「んー?スタッフに関係者ですって言って通してもらったよー?」

 

投げキッスしたら通してくれたと自慢げに話す幼女。

………あれ、待って、それ大丈夫?当日警備員にマジの人いない?今日子供いっぱい来るよ?

 

円華「ほら理葉、もう時間だよ、ステージに向かわないと。」

理葉「そこの窓から中庭のステージが見えると思うけど、私たちそこで開会の挨拶をするので。」

円華「開会の挨拶は学内放送にも流れるから安心してね。じゃあ。」

 

教室を後にする二人。

 

すぅ「綺麗でしたねー。アレは確かに映えますよ。」

シフォン「チョイスした人のセンスは素晴らしいと思いますわ。」

まい「終わったー…。うぅ、疲れたよ…。」

 

なんとかコースを組み上げたオーナー。

 

シフォン「ここで疲れ果てられると困るのですわ。」

まい「(´・ω・`)悪夢の1日が始まる。」

すぅ「よくそれで出店しようと思いましたね…。そういえばロックさんは?」

シフォン「少し遅れてくるそうですわ。」

 

まぁ、仕事の疲れとかもあるよね…仕方ないか。

 

「只今から、迎舞祭開催のオープニングセレモニーを行います、参加者の方は中庭にお越しください。」

 

校内に流れるアナウンス。

 

シフォン「始まりますわね。窓の方を覗いてみましょう。」

 

4人揃って窓から中庭を見ると、理葉さんがステージ上に登っていくのが見えた。

私たちと同じように窓から眺める人も何人もいる。

マイクを構え、ゆっくりと喋り出すのが聞こえる。

 

理葉「……皆さん、おはようございます。」

「「「おはようございまーす!」」」

理葉「また、この時期がやってきました。皆さんも待ち遠しかった人が多かったと思います。迎舞大学こと、ゲーム大の学園祭、迎舞祭を開催します!!」

「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」

 

パンパンと白煙が上がると同時に凄い歓声が中庭に響く、圧倒されそうな勢いだ。

 

「理葉サーン!付き合ってくださーい!」

「結婚してー!」

「ドレス似合いすぎー!!」

「理葉さんは俺の彼女!」「何言ってやがる俺の嫁だ!」「違うわよ!あたしよ!」

 

……一部関係ない声が上がっているが、多分気にしたら負けだろう。

 

理葉「………(汗)」

 

遠くからでもドン引きしてるのがわかる。

まあ、美人だからなぁ…。

 

理葉「…今年の迎舞祭は実は!例年の講堂ステージ企画に加えて、新しい企画を実施します!その名も、『芸能人さん、ゲーム大にいらっしゃい!』今年はなんと、今人気急上昇中のアイドル、『暁心愛』ちゃんを迎舞祭にご招待しちゃいます!」

「「「おおおおおお!」」」

「小学生キタコレ!」

「お持ち帰りしてー!」

すぅ「待って!今聞こえちゃダメな単語聞こえたんだけど!?」

シフォン「日本の闇を感じますわ…」

 

この大学どうなってんの!?

 

理葉「トークショーだけでなくなんと!私、瀬良理葉との決闘も予定してますので、どうぞご期待ください!ライブの様子は講堂のみでなく、学食、各所のモニターでも配信します!」

すぅ「ところで、暁心愛ってだれ?」

葉月「うーん、簡単に説明すると私の後にデビューした子かなぁ…。」

シフォン「後輩ってことですのね。」

葉月「うん、私がトリックスター堕天使なんだけど、心愛はワルキューレ堕天使を使うの。事務所は元々私たちでユニットを組ませるつもりだったみたいだけど、その前に私お休みしちゃったし。今は代わりに第二のエンジェルリンクとして堕天使ブームをあの子に引っ張ってもらってる感じ。」

すぅ「なんだろ…若干アイドル業界の闇を若干感じるんだけど。」

 

ブーム?堕天使ってブームだったの?しかも所属事務所は今もそのブームを続けさせようとしてるの?

 

まい「うーん、アイドル怖い。」

シフォン「でも、見る分には面白いかもしれませんわね。」

 

今回の目玉イベントな以上、迎舞祭を簡単に中止にできないのも頷ける。

 

理葉「それではみなさん、今日は思い出に残る1日にしましょう!迎舞~…、」

「「「「「スタァァァァトォォォォォ!!!」」」」」

 

割れるような大歓声が再び響き、集まっていた人たちが散り散りになっていく。

 

シフォン「始まりましたわ。」

葉月「うううう!お祭りだー!」

すぅ「頑張りましょう。」

まい「私頑張らないからよろしくねー。」

すぅ「オーナー!」

 

ついに始まった迎舞祭。

そして…この日が私たちにとって、最も長い1日になるのでした。

 

シフォン「ところで…もういいですの?」

すぅ「何が?」

シフォン「もう…もう、海洋研に行きたくてたまりませんわ!」

すぅ「お願いだから我慢してよ!?」

まい「(´・ω・`)」

 

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海洋研への欲求を我慢できそうにないシフォンを仕方なく隣の教室に行かせ、ストレスを発散させる。ただし、衛生面から鑑賞のみと厳しく釘を刺しておいた。……が。

 

「なんだあのメイドさん!」

「すげー!かわいい!」

「隣のブースどうなってんだよ!?」

 

すぐさま聞こえてくるシフォンへの感想。

ちらちらとこっちに顔を出してくる人もいる。

大丈夫かな…?そのまま引きとめられて帰ってこなくなったりしないよね?

 

「写真いいですか!?」

シフォン「それでしたら、こちらのハゼと一緒に撮りたいですの。この如何にもアホらしさ全開の口周りがたまらなく好きですわ!」

「よし!みんな撮るぞ!メイドさんと写真撮影だ!」

「「「フォォォォォォゥ!!」」」

 

……ホントに隣は海洋研究会なのか疑わしくなってきた。

 

葉月「すぅおねーちゃーん。どうー?」

 

袖を引っ張られる。振り返ると、私同様に黄色いエプロンを付け、ピンクの三角巾を頭につけた葉月ちゃんがいた。

………。(思考が消し飛ぶ)

 

まい「(´・ω・`)おーい、帰ってこーい。」

 

……ハッ!?いけない、いけない。あまりの可愛さに意識が奈落の落とし穴に嵌って帰ってこれなくなるところだった!

 

すぅ「とってもかわいいよ、葉月ちゃん。」

葉月「シフォンおねーさんが、これでお手伝いすれば大丈夫だってー。」

すぅ「シフォンが?というより葉月ちゃんに何手伝わせる気なの…?」

 

なんか嫌な予感がする。

 

葉月「大したことじゃないよー?普通にお客さんと決闘してきてあげて、だって。」

 

あなたの普通は普通じゃないんです。

普通と書いて虐殺と読むんです。

堕天使じゃなくてもダメな気がする。

 

すぅ「一応聞くけど…なんのデッキ?」

葉月「DD」

すぅ「やっぱりダメだった!」

 

DDってアホみたいな展開力でサイフリートとかカリ・ユガ、エグゼクティブ・シーザーで妨害したりエグゼクティブ・アレクサンダーで6000ダメージ叩き込むデッキでしょ!?悪魔じゃん!いやデーモンだけど!

 

「すいませーん、遊戯王で遊びたいんですけど貸出デッキありますか?」

 

お客さんから声がかかる。

 

すぅ「…!いらっしゃいませ!TCGまいログカフェへ、ようこそ!貸出デッキの希望ですね!」

葉月「いらっしゃいませー。」

「うお、子供が手伝ってる。」

「えー、えらーい。」

 

葉月ちゃんバレないよね…?大丈夫だよね?

 

ロック「お待たせしたでござる。」

すぅ「ロックさん。」

ロック「ついに始まったでござるな、学園祭。」

すぅ「アハハ…ここまでくれば後はお客さんに精一杯楽しんでもらうだけですよ。」

ロック「そうでござるな。あと、聞いたでござるか?今年の芸能人企画、葉月殿のご後輩だそうですぞ?」

すぅ「みたいですね。ちょっと驚きました。」

 

というより、小学生アイドル多くない…?大丈夫?

 

ロック「さて、拙者は本部の方に顔を出してくるでござるよ、挨拶も兼ねて。」

すぅ「あ、そっかポスターデザインの担当でしたもんね。」

ロック「そういうことでござる、当日の学祭の係員は相当に忙しいようでござるよ?」

 

警備、案内、誘導、仮設調理、ゴミ処理、当日企画、企業対応、とサラッと業務を口にしていくロックさん。特に警備は芸能人企画を実施するときには配置を変えて大勢の人数に対応しないといけないとのことだった。やっぱりイベントというだけあってか大変みたい。

 

ロック「では、行ってくるでござる。」

 

教室を後にするロックさん。

 

葉月「アビス・ラグナロクの効果でモンスターを除外!サイフリートの効果!光の護封剣を無効化!エグゼクティブ・アレクサンダーで攻撃!」

「ぎゃああああああ!」

すぅ「言わんこっちゃなかった!!」

 

ふと目を離しただけで卓上で幼女によって繰り広げられる虐殺劇。あーもー!シフォン!早く戻ってきてよ!!

 

まい「3、2、1、GO~shoot!いっけー!」

すぅ「オーナー!掛け声間違ってます!ミニ四駆ですよね!?それベイブレード!」

 

数人のお客さんとミニ四駆に興じるオーナー。待って!それでいいの?場のノリだけで今日乗り切るつもりなの!?

 


出張版:TCGまいログカフェ、すでに開幕から混沌の渦に飲まれていたのでした…。

 


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シフォン「はぁー…楽しかったですわ…。」

すぅ「お、お帰り…シフォン…。」

シフォン「す、すごい顔になってますわよ…すぅ…。」

 

シフォンからも指摘されるあたり、相当すごい顔になっているんだと思う。

当然だよね、爆走するオーナーと卓上虐殺ライブを敢行する幼女の相手をしながらお客さんの対応もしてるんだもん…。

 

まい「燃え尽きたよ…真っ白にね…。」

シフォン「隣から聞こえてましたけど貴女自分ではしゃいでただけでしょうに。」

まい「(´・ω・`)」

すぅ「とりあえず仕事戻ろっか……。」

シフォン「そうですわね…すぅ、貴女折角だからそこの小学生と一緒にキャンパスを回ってみたら如何かしら?私も迷惑をかけましたし。」

すぅ「え…私が?」

シフォン「もう10時ですし、休憩も兼ねていったらどうかしら。」

まい「いいんじゃない?人は多いけどそんなに忙しいわけじゃないから。」

 

シフォンがいるならブースの仕事は多分問題ないかな…葉月ちゃんも休みなく動いてたし。

対戦が終わったタイミングで少女の元に近づいて声をかける。対戦相手は完全に魂の抜けた顔をしていた。

 

すぅ「ね、一緒にお店回ってみよっか?」

葉月「…ホント!?」

 

目を輝かせる少女。

 

葉月「まってて!」

 

葉月ちゃんは直に支度をし、私の元に来た。

 

葉月「さすがに素顔で歩いてたら大変だからフード被るね。」

 

初めて会った時と同じ、ヘッドフォンとフードを被る。

 

葉月「行こっ!」

 

手を引かれて教室を飛び出す。既に通路は大勢の人達で賑わっていた。

エスカレーターを降りて、中庭の大通りに出る。

 

葉月「……すっごーい。」

 

屋台に群がる人々。

連れ立って歩く人達。

威勢のいい勧誘の掛け声。

路上のパフォーマンス。

大学の学園祭ってこんなに凄いんだ…! 

 

「フランクフルトいかがですかー!」

「おしるこ売ってマース!」

「ステーキだよー!すてーきー!」

 

なんだろう、一部変な風に聞こえるのは、私の心が汚れてるからだろうか。

 

葉月「私あれがいいー!」

 

指さす方向に見えるのはわたあめ。

やっぱ子供らしいなぁ。

 

すぅ「いいね、食べに行こっか。」

 

2人して屋台に並ぶ。

 

「いらっしゃいませー。じゃんけんで勝つと1本のところ2本になりまーす。」

 

屋台を運営してるのは若い女性2人と男性。

 

「きゃー、かわいいねー、姉妹かな?」

すぅ「あ、いえいえ、姉妹ってわけじゃ。」

葉月「そーだよー!姉妹じゃないもん!」

 

うんうん、どう見たって似てないか、

 

葉月「こ  い  び  と  だもん!!」

すぅ「はぁ!!?」

「「きゃー!かーわーいーいー!」」

すぅ「何言ってくれてるの!?はづっ、」

葉月「?」

すぅ「恥ずかしいでしょ!」

 

いけない、ここで気軽に葉月ちゃんなんて呼んだら大変なことになる!!

……我慢、我慢よ!この場の恥辱さえ耐えればアイドル大騒動は回避できるんだから!!

次回、まいログ、社会的に死すなんて絶対に起こしちゃいけない!

 

「おねロリ尊い…。」

「いいもの見せてもらったからサービスで2本上げちゃいます!!」

すぅ「あ、ありがとうございます…。」

 

大事なものを失った…気がする。

わたあめを中庭の腰掛けで二人で舐める。

 

葉月「♪」

 

いかにも上機嫌な幼女。

それに比べて私の表情は若干暗い。

まあ、無理もないよね…、失ったものが大きいし。

 

葉月「おねーちゃん。」

すぅ「なに?」

葉月「今日、すっごく楽しいよ!」

 

満面の笑顔で純朴な瞳を向けてくる。

しかしほんと、なんでこんなに懐かれちゃったのか。

ちょっと聞いてみようかな…。

 

すぅ「葉月ちゃん。」

葉月「?」

すぅ「どうして、私のこと好きになってくれたの?」

葉月「うーん。」

 

少しだけ考えるそぶりを見せる葉月ちゃん。

 

葉月「あたしがおねーちゃんのこと好きなのは…、すぅおねーちゃんはね、自分で気づいてるかわかんないけど、誰かのためって思ったら真っ直ぐに走っていけちゃうんだよ。」

すぅ「えっ…?」

葉月「あたしが舞台から落ちそうになったとき、おねーちゃんは必死になって他の2人よりも真っ直ぐに手を掴みにきてくれた。

あたしは今まで、大勢の人たちの前で歌って、踊ったきたけれど…でも、ホントに誰か1人のためだけにそういうことができたって感覚持ってなかったんだよ。

だからおねーちゃんは違うなって思った。

きっと、目の前で誰かが泣いてたら、隣にいた人も放って走れちゃう。

自分が助けて貰った側だから、おんなじように誰かを助けたい。

自分が役に立たないって思ってる癖に、そんな自分が一番許せない。

そんな向こう見ずで、どうしようもないところが…あたしは好きかな。」

 

そんな風に…考えていてくれたんだ。

じんわりと心の中に温かいものが広がる。

 

すぅ「ありがとね、葉月ちゃん。」

すると、中庭の向こうから声が聞こえてきた。

「どうすんだこれ…。」

「いくらなんでも酷すぎないか?」

「一体誰がこんなことを…。」

すぅ「なんだろ?」

葉月「あそこって?」

すぅ「仮設……調理場?」

 

看板に書いてあるのは仮設調理場の文字。

向かってみると学生3人が立ち尽くしている。

一人は先程ブースを確認していた係員だ。

 

すぅ「どうしたんですか?」

「あ、はい、この調理場なんですけど…。」

 

調理場の流し台を見る。

流し台には大量の礫が詰められており、使い物にならなくなっていた。

 

すぅ「そんな……。」

円華「すぅ君。」

 

円華さんが後ろからやって来る。

どうやら、この連絡を受けて現地にやってきたようだ。

 

円華「やっぱり、ビラだけでは終わらなかったみたいだね…。」

すぅ「これ……やっぱり……。」

円華「君の予想してる通りだよ。迎舞祭の団体活動を邪魔してる人達がいる。」

 

君たちは持ち場にもどるようにと指示を出して、発見した3人を戻す円華さん。

 

すぅ「まだ、やった人は見つかってないんですよね…?」

円華「これだけの人数だからね…、見つけるのはやっぱり容易じゃない。今の所これ以外にも何ヶ所かで物損や紛失の被害が実は出てるんだ。」

葉月「ぶっそん?」

円華「ものを壊すってことだよ。別ブロックで屋台の電源に繋がるコードを切られたって話もある程さ。」

すぅ「それ、感電しませんか?」

円華「かなり危険なこともやってるね…、正直、本部にも苦情がきてるし、来場者からの不安が顕在化するのも時間の問題かもね、今は後手に回りながらの状態だよ。」

 

これだけの人数だと、いくら警備を増やしても死角ができてしまうからね、と続ける円華さん。

 

すぅ「私たちにもなにか出来たらいいのに…。」

円華「気持ちだけは受け取っておくよ。でも、これはやっぱりボクたち運営サイドの問題…かな。」

君たちも気をつけてと告げて、円華さんは次の場所に走っていった。

葉月「お祭り……どうなっちゃうんだろう。」

すぅ「……行こう、葉月ちゃん。」

 

葉月ちゃんの手を引いて、校舎に戻っていく。

屋内の出展物は実験やクラフト、写真やイラストの展示が多く、屋外ほどでは無いものの、相応に人が賑わっていた。

 

すぅ「こっちも凄いなぁ…。」

 

…が、ところどころから良くない声が聞こえ始めている。

 

「うわぁ、作品ボロボロじゃん。」

 

別のところでは、

 

「おい!教室で何火を使ってんだよ!」

「いえ、これはちゃんと学校から許可を取った実験で…!」

「子供の前で火なんかちらつかせんな!これだから今の若い奴らは…!」

葉月「うわぁ…。」

すぅ「…早く戻ったほうがいいかも。」

 

唇を噛み締める。

エスカレーターを上り、元のブースに戻る。

 

シフォン「あら、思ったより早かったですわね。」

すぅ「ただいま、…何ともなかった?」

シフォン「オーナーが遊び呆けてる以外は特に何もないですの。何かありましたの?」

すぅ「一部の団体が営業妨害を受けてるみたい。」

シフォン「やっぱり妨害がでてますのね…。つい先ほどですが、隣の海洋硏でも被害が出てましたわ。」

すぅ「海洋硏が?」

私たちが出てる間に?

シフォン「…展示用水槽に洗剤を入れられて魚が……魚が全滅していましたの……。」

葉月「ひ、酷い…!」

シフォン「こんなこと…絶対許しませんの…見つけたら必ず仕置して差し上げますわ…!」

 

こんなに怒り狂ってるシフォンは中々見れないかも。

 

すぅ「でも、怪しい人なんていなかったんだよね?」

シフォン「それが疑問ですの。こんなに人が多いのに怪しまれずに、展示物に手を出せたりするのかどうか。」

 

たしかに…各ブースには人がそれぞれいて、相応に目がある。どうやったらこんなに…。

 

まい「このままだと学祭の続行が危ぶまれるね。」

すぅ「オーナー…。」

窓の外に目を向けたシフォンが何かに気がついた。

シフォン「あら…人がだんだん、ホールの方に向かっていきますわね。」

葉月「あ、そっか。芸能人企画の時間が近くなったからだよー。」

まい「暁心愛だっけ?」

葉月「そうそう!」

 

持ってきていたノートPCを立ち上げ検索し始めるオーナー。

 

まい「なになに?『葉月美羽に代わる新たなる堕天使の伝道師、今日、貴方は新たなる奇跡を目撃する。』…随分な売り文句ね。』

葉月「私の事務所の宣伝みんなこんなもんだから…。」

シフォン「苦労してますわね…。」

 

そのままパソコンで情報を漁るまい。

すると、

 

まい「え。」

 

まいの動きが止まった。

 

まい「…これ見て。」

PCの画面を見る。どうやらプイッターのようだ。いつもならトレンドの一覧にはくだらないゴシップの記事や広告が載っている…が、


そこには衝撃の一文が載っていた。


すぅ「……『暁心愛、交通事故』…?」


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画面の向こうに並ぶ文字、私は読み込むのに10秒近く要した。

 

葉月「ちょっと!?どうなってんのコレ!?心愛大丈夫なの!?」

 

声を荒げる葉月ちゃん。

 

シフォン「芸能人企画が…。記事の通りなら心愛さんの方に怪我はないみたいですけど。」

まい「(´・ω・`)うん、このままだと間違いなく中止になるかも。」

シフォン「そんな…折角楽しみにしてくれてた人たちも大勢いましたのに…。」

まい「でも、ちょっと怪しいよね。」

すぅ「どういうことですか?オーナー。」

 

まいは直ぐ様画面をスクロールさせる。

そこには、

 

すぅ「事故の直前、複数台の黒塗りの高級車が並走し、事故を誘発させたとして、警察は当該車両の行方を追っている…?」

シフォン「……まさか。」

 

怪訝な表情をするシフォン。

 

まい「学園祭を潰すために芸能人の乗る車を事故に遭わせて遅延、学校内での数々のトラブル…、正直狙ってやってるとしか思えないね。」

すぅ「待ってください、学園祭に反対する人たちがいたとしても、態々芸能人まで狙う理由がわからないです。

学園祭を本格的に中止にさせようとするならもっとダイレクトな方法をとればいいですよね?

それに…そんなことができるほど、学園祭に反対していたグループって大人数なんですか?」

シフォン「同感ですの。少人数なら学園祭に向けて殺傷沙汰を起こすと脅迫を送ってしまったほうが簡単ですわ。」

ロック「ふむ、そこから先の話は一度置いておいたほうがいいでござるよ?」

すぅ「ロックさん。」

 

本部から戻ったロックさんが私たちのところにやってきた。

 

ロック「学園祭の中ではすでに不満の声が大量に上がり始めているでござる。そして、此度の事故の話、不満が溜まった来場者の怒りを着火させるには十分でござろう。」

シフォン「…来場者自身の手で暴動でも起こさせるつもりですの?」

ロック「そこまでは言い切れぬ。どちらにせよ、このまま行けば理葉氏と心愛氏でやる予定だった決闘企画は立ち消え、迎舞祭は大失敗になるのは違いなかろう。…本部も既に慌てふためいているでござるよ。」

すぅ「……。」

ロック「特に、ホールに並んでいた観客たちの怒りは計り知れぬでござろう。」

 

…このままだと多くの人たちが悲しい思いをしなきゃいけなくなる。

まいも、シフォンも、ロックさんも、私も、揃って頭を抱えていた。

何者かの悪意で、大事なイベントか壊れてしまう。

でも、どうすれば……、

 

「ねえ。」

 

鈴を転がすような声。

立っていたのは…葉月ちゃん。

 

葉月「それって、要は『ステージに立ってお客さんの注目を集めれば』良いんでしょ?」

すぅ「えっ…?」

シフォン「……。」

 

葉月「知らない誰かの『目を奪う』…なら、それって『アイドル』の専売特許だよね?」

 

…そうだった。

すぐ近くにいたじゃないか。

天真爛漫な笑顔を振りまいて、舞台の上からありったけの人々の視線を集めてしまう存在が。

 

すぅ「でも、そんなの許可取れるの?」

ロック「そうでござる。いくらなんでも本部に今から話を持ちかけてやろうとすれば更なる混乱になるのは間違いないでござるぞ?」

葉月「そのままホールに直行でいいんじゃない?」

4人「は?」

葉月「ふふん、ぶっつけ本番、即興ライブ、いざとなったら台本は投げ捨て!そのくらいとーぜんでしょー!」

 

なんでだろう、この少女は無茶苦茶な事を言ってるのに。

どうして、こんなに自信に溢れているのか。

どうして、何とかできるように感じてしまうのか。

 

すぅ「あはは…なんだろ、ちょっと笑えてきちゃったかも。」

シフォン「はぁ…ブースは任せなさいですわ。すぅ、その子をおねがいしますの。」

すぅ「シフォン?」

シフォン「ここで何もしないよりは良さそうですの、早くホールに向かいなさい。」

ロック「拙者もここにいるから案ずることはないでござるよ。2人で行ってくるがよかろう。」

まい「はやく行ったら?円華さんには連絡しておくから。」

すぅ「オーナー…。」

ロック「しれっとシカトされたでござる」

葉月「おねぇちゃん。」

 

少女に手を握られた。

温かくて、不安な気持ちが少しだけ和らぐ。

 

すぅ「……わかった、行くよ!葉月ちゃん!」

葉月「うん!」

 

ブースを飛び出して、葉月ちゃんの手を引く。

廊下からは既に罵声が上がっている。

エスカレーターを駆け下りる。

2階も、1階も、既に似た状態だ。

大通りに出て人の波を躱しながら進む。

芸能人企画まで残り45分を切った。

大通りも同じく、数人の男性が屋台や道行く人に突っかかっている。

それらを無視してホールへひたすらに走る。

…結構距離がある…!

葉月ちゃんは体力に自信があるのかまだ余裕そうだった。

ホールの建物の目の前に到着し、そのまま階段を駆け上がる。

息も絶え絶えになりながらホールのエントランスに入ると、円華さんが待っていた。

 

円華「すぅ君!葉月ちゃん!大丈夫かい?」

すぅ「ハァ…なんとか…ハァ…。」

葉月「ふぅ…うん、大丈夫。」

 

円華さんに連れられ、舞台裏に案内される。そこには理葉さんと、ステージ企画の担当の係員の人たちがいた。

葉月ちゃんの姿を見るなり、驚いた表情をしているのがわかる。

 

「おい、あれって…。」

「うそだろ?」

「本物かよ…。」

円華「葉月ちゃん…オーナーから連絡をもらったけど…本当にステージに立つつもりなのかい?」

葉月「うん、私なら心愛の代わりに舞台に立っても問題ないと思うの。」

理葉「でも、打ち合わせなんてなにもしてないんだよ?出来るの?」

 

理葉さんが心配そうな視線を向ける。

 

葉月「決闘とトークショーはできるでしょ?元々用意してあった質問を見せてほしいなー。」

円華「音源はどうするつもりだい?」

葉月「わたしのスマホに接続させて?それなら必要な音楽は使えるよ!」

 

残り時間は30分を過ぎ、客席からもざわつきが大きくなりつつある。

一気に台本を読み込む葉月ちゃん。

凄まじい集中力だ。

 

理葉「質問はできるだけ絞るけど、ほとんどアドリブになるよ?」

葉月「だいじょーぶ!」

理葉「頼もしいわね…。」

葉月「使うデッキは?」

理葉「ブラマジの予定よ?」

 

理葉さんが答えると、葉月ちゃんは少し黙ってからふーんと返事をする。

すると、理葉さんのスマホが振動した。

 

理葉「もしもし、はい。」

「もしもし、今日来るゲストもこの有様だ…、中止の報告はまだ出てないのか?」

 

理葉さんが俯く。

 

「もうニュースを見たろ、あの事故でこっちに来れるのは絶望的だ。お客さんからの反応が怖いのはわかるが、直ぐに中止の発表を…。」

 

突然、葉月ちゃんが理葉さんのスマホを奪い、電話に出た。

 

葉月「はじめまして!葉月美羽です!」

「な、何だ君!?いや、葉月?葉月ってあのアイドルのか?」

葉月「うん!心愛が事故にあったのは聞いてると思うの。で、いきなりで悪いんだけど、今回のホール企画、私にやらせてちょーだい?」

 

こんなことをいきなり言われたら驚くよね…。

 

「は!?い、いやしかしだな…予定と違うものを見せられてもお客さんは困るだけでは?あと、こんな短時間では準備もろくに進んで…、」

 

葉月ちゃんの目が鋭くなる。

 

葉月「ここでなにもしないで、そのままお客さん返すよりずっとマシでしょー?

アナタも理葉さん達も、今日のためにずっと準備してきたんでしょ?なのに、こんなトラブルで台無しにするの?」


スーッと息を吸う。そして、

 


葉月「バッカじゃないの!?」

 


突然の大声に全員が驚いた。


葉月「お客さんもこれじゃあ何にも満足できないでしょ!しょーもない奴らに負けてみんな不満で学園祭を終わらせるの!?

アンタもしょーもない奴の一人なの!?」

「なっ……!」

 

怒りを露わにする葉月ちゃん、いつもとはあまりにも違う迫力に私もたじろぐ。

けど、彼女は理葉さんや円華さん、そしてスタッフ達を思い激昂していた。

 

葉月「あたしなら観客を沸かせられる。

あたしなら満足させられるわ!

アンタ達の学園祭、悲しい思い出だけで終わらせたりなんかしないから!

なんにもしないでいるなら、ここからの時間、あたしに全部掛けろ!

事務所とか難しい話は後で任せてよ。

…心愛と同じアイドルとして、舞台の上に立つから。」

 

理葉さんにスマホを返す葉月ちゃん。

そこにいたのは間違いなく、観客を思うアイドルだった。

 

理葉「委員長…私からもお願いします。切り返すチャンスがあるんです。私たちだって、今日のために準備を積み上げてきたんです。後悔したくないんです。どうか…その目を摘み取らないでください。お願いします。」

 

電話の向こうからでも応対に迷っているのがわかる。

 

「…わかった、こっちも他のトラブルにも追われてるからな…警備シフトは予定してた芸能人企画の際のものに切り替えてるから、思いっきりやってこい。もう知らんぞ……全く。」

理葉「ありがとうございます。」

 

電話を切る理葉さん。

 

葉月「じゃ、やろっか!」

 

理葉さんが許可をもらったのを見届けた後、葉月ちゃんが数人に耳打ちする。

最後に円華さんに何か耳打ちした後、私のところに戻ってきた。

 

円華「いいね、折角だ。その手でやってみよう。音響、照明、映像、各自準備はいいかい?」

「大丈夫です!」

 

時間が迫っている。客席のざわつきはさらに大きくなる一方だ。

不満の声も度々聞こえてくる。

 

葉月「それじゃあみんな、よろしくね!……始めて!」

 
照明係がホール内の照明を一気に落とす。

 

「な、なんだ?」

「芸能人企画は中止になるんじゃないのか?」

「いやいや、なら誰が出てくるんだよ?」

 

突然の暗転に驚く観客達。

理葉さんが舞台袖に立つと、そこにスポットライトが当たる。

 

理葉「皆様、お待たせしました。迎舞祭、ホール企画、『芸能人さん、ゲーム大にいらっしゃい!』を始めたいと思います。本日急遽当企画のプログラムを変更しています。ご了承ください。」

 

頭を下げた後、一度理葉さんが姿を消す。

ブー、と長くブザーが鳴った。

 

葉月「すぅおねーちゃん」

すぅ「えっ?何?」

 

私にこっそり話しかけてくる。

 

葉月「企画終わったら、『お願い』聞いてね?」

 

私が返事をする前に、フードを被って少女は舞台の中央に駆けていく。

中央に立った瞬間、スポットライトが一気に彼女を照らす。

 

音響「放送範囲、全校放送に設定!」

映像「全教室のモニターに映像を送信、ライブ開始します!」

すぅ「え、全校放送!?」

 

全校放送ってまさか、地域住民にまで流すつもりなの!?

フードを被った彼女の口元がニッと笑ったのが見えた。

一気にフードを脱ぎ去り、長い髪を揺らす。

手を掲げ、満面の笑みで、堂々と宣言した。


葉月「みんなー!おっまたせー!葉月美羽のLive☆Duel!出張版!はっじまるよー!」

 

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舞台中央で威勢よく挨拶した葉月ちゃん。

お客さん達の反応はまさに面食らったと言わんばかりだ。

 

葉月「驚かせちゃってごめんね?みんなも知ってると思うけど、実は心愛が今日来れなくなっちゃったの。本当にごめんなさい。

でもね!だからってみんなを残念な思いのまま帰らせるなんて事はしないわ!

これから1時間!たーっぷりみんなと楽しい時間をすごしましょー!」

 

数刻の沈黙、そして、

 

「「「「「うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」」」

「リアル小学生キターーー!!」

「ガチ幼女ダァァァァ!」

「天使!?蹂躙天使がなぜここに!?まさか自力で脱出を!?」

「彼女は蹂躙天使ではない(無言の腹パン)」

「ハル◯オオォォォォォ!」

すぅ「いや誰!?」

 

理葉さんが葉月ちゃんの横に立ち、司会を始める。

 

理葉「ということで、本日は暁心愛さんに変わり、葉月美羽さんに迎舞大に来てもらいました!葉月さん、今のお気持ちをお願いします。」

葉月「実はー、こっそりお忍びでここに来てたんだー。屋台とか出し物とかいっぱいあってびっくりしちゃった!こんなに準備してくるなんて、みんなすごいねー!」

理葉「一番気に入ったお店はどこでしたか?」

 

あれ?この質問嫌な予感がする。

小悪魔的な表情をして返事をする少女。

 

葉月「んー、チョコバナナも美味しかったけど、わたあめかなー。サービスで二本もらえたけど、……一本を二人で舐めても別に良かったんだよねー。」

「誰だぁぁぁぁ!幼女とわたあめ購入した奴は!」

「血祭りだぁぁぁ!」

「生かして帰すな!必ず見つけろ!」

 

いやぁぁぁぁ!?

これ見つかったら私生きて帰れないんじゃ!?

 

円華「すぅ君?汗がすごいよ?」

理葉「と、とてもアグレッシブですね…。葉月さんは、もう好きな人がいるのかな?」

 

やめてやめてやめて!?

 

円華「落ち着いてすぅ君!予想はついたし気持ちはわかるけどここで見つかったらほんとに生きて帰れなくなるよ!?うわっ、なんかプイッターの通知が凄い!?トレンドがもう葉月ちゃんでいっぱいに!?」

 

流石元アイドル、人気の高さは伊達じゃなかった!あとこの会場ロリコン多すぎない!?

 

葉月「ないしょー。だってーアイドルはー恋したらダメだもん。」

「つまりお父さん…?」

「なんて羨まけしからん父親だ!必ず始末するぞ!」

すぅ「観客が過激派過ぎる!」

 

ごめんなさい、見知らぬお父さん。明日の日の目は拝めないかもしれません。

 

理葉「ちなみに、将来はこんな大人になりたいとかありますか?」

葉月「やっぱりー、スタイルも良くてー、綺麗な大人のおねーさんになりたいなー。……理葉さんみたいに胸に顔をぶつけられても動じない人とか。」

理葉「ちょ」

 

まさかの衝撃の爆弾発言だぁぁ!?

 

「理葉さんの胸に、顔を埋めただと…!?」

「ちくしょう!アイドルだからって何やっても許されると思うなよ!?」

「迎舞大一の美女とのツーショットだけでなくセクハラまでやったのか!」

「いいぞ幼女もっとやれ!!」

理葉「いや、あれ事故だから…、どこまで根に持つの。」

葉月「むー……。」

 

ジトっとした目で理葉さんを思いっきり睨む葉月ちゃん。

 

理葉「と、とりあえず、次の質問に行きましょう。うぅ……なーんだかなーって…。」


そのまま理葉さんが葉月ちゃんとトークを続けていく。

堕天使デッキを握った経緯や、最初のステージの時の話をしていき、次の企画に移ることになった。


理葉「それでは皆様、お待たせしました!当初は心愛さんとのデュエル企画でしたが、葉月さんともデュエルを行なっていきたいと思います!。」

「「「「「おおおおお!」」」」」

理葉「今回は、遊戯王の中でも定番のブラックマジシャンデッキを使って…、」


葉月「ちょーっと待ったー!」


理葉「えっ?」

葉月「エンジェルリンクにブラマジで挑むのも悪くないんだけどー…どうせなら、みんなも理葉さんの本気、見たいよねー?」

「当たり前だ!」

「理葉さん!本気見せてください!」

「手加減なんてカッコ悪いですよ!」

理葉「え、あ、あのー…。」

 

マイクを手に取りコールを始める小学生。

 

葉月「ひーめ!ひーめ!ひーめ!ひーめ!」

観客「「「ひーめ!ひーめ!ひーめ!ひーめ!」」」

 

一斉に手を掲げコールする観客達。

 

理葉「えー…予定にないんだけど…。」

 

円華さんがステージに上がり、理葉さんの元に行く。

 

 

円華「理葉、はいどうぞ。」

理葉「待って、なんで用意してたの?『閃刀姫』。」

円華「葉月ちゃんに耳打ちされたからね。バックに入ってたの知ってたから取ってきたんだ。」

葉月「さすが円華さん、なんでも知ってるね!」

円華「何でもは知らないよ、知ってることだけっ…て、ほら理葉、折角コールが来てるんだ、しっかり応えないとね。」

 

若干溜息をつく理葉さん。

そして、目つきが変わる。

 

理葉「では…、急遽予定を変更します。葉月ちゃんのエンジェルリンク対、私瀬良理葉の…いいえ…、ユーザーネーム、『ヘケト』の閃刀姫によるデュエルを行います!」

「「「神ィィィ!」」」

すぅ「す、すごいことになっちゃった…。」

葉月「それじゃあリベンジマッチだよ!お店でやってくれた分、しっかり利子つけて返してあげる!」

すぅ「いや、利子ってどこで覚えてきたの…。」

理葉「こうなったらもう、あとはどうとでもなれだよね…いいよ、お店の時同様に叩き潰すから!」

円華「質量で?」

理葉「円華!」

 

お客さん、大爆笑。

 

すぅ「とりあえず…なんとかなってる…のかな…。」


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