TCGまいログカフェにようこそ! 第5話:冴えないデッキの鍛え方 Fes②

とりあえず完全に精神破壊(マインドブレイク)されてしまった葉月ちゃんを宥めて落ち着かせる。 理葉「見た感じ、普通に展開力と立てるモンスターの性能は十分だったかなぁ…。
ただ、どうしても誘発には弱くなるって感じだよね。
うらら、増Gは確定、蘇生カードに対してわらし、Dクロでしょ。スペルビアからの蘇生展開を行う時点でヴェーラーと泡、しぐれ、スペルビア効果の蘇生で出てきたタイミングで5体目になってニビルを踏むからこの時点で主要なものでも8種類の誘発を警戒しないとやられるかも。」
すぅ「すごいですね…その…知識量が特に…。」
理葉「そんなことはないと思うけど…そうかな?」
円華「自覚ないからねぇ…彼女。」
だからあんな蹂躙が平然と起こるんですね、わかります。
理葉「ちょっとデッキ広げてもらえる?エクストラもお願い。」

渋々デッキを広げる葉月ちゃん。

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理葉さんはじっくりとデッキを眺め、感想を口にした。

理葉「…よく出来てるとは思うけど、まだ詰められるかな。あと…なんだろ、この組み方、どこかで見た気がする。」
すぅ「テレビとかじゃないんですか?」
理葉「違うの、メディアとかじゃなくて、実際にやったことがあるはずなんだけど…だいぶ前のことだから思い出せないみたい。葉月ちゃんがこのデッキを監修をした人と面識があれば分かるかも。」
シフォン「組み方の癖まで網羅するというのもすごいですわね…。」

それだけ場数を踏んでいるということなんだろう。…大会勢の人って凄いな。
理葉さんは広げたカードの中から何枚か取り出して横に移動する。

メインデッキから取り出したのは、

堕天使アムドュシアス、
堕天使ゼラート、
トリックスター・ヒヨス1枚、
トレード・イン3枚、
強欲で貪欲な壺2枚
背徳の堕天使1枚。
少し悩んだ後に
ハーピィの羽箒を。

エクストラデッキからは

トリックスター・ブルム一枚、
失落の堕天使一枚、
宵星の機神ディンギル
NO.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー。

理葉「この辺りが入れ替えかな。」
すぅ「ずいぶん抜きましたね。」
葉月「むむむぅ…。」
理葉「アムドュシアスは自身含む堕天使カード2枚を切っての墓地回収なんだけど、ハンドコストが厳しいの。ゼラートは単体だとスペルビア以上に腐るかな。後攻からなら確かに強いけど、先攻特化ならミスマッチになる。で、後は制限になったステージの代役になるカードが必要かな。無制限になったとはいえ、キャンディナが複数手札に来てもちょっと辛い。」

り、理詰めがすごい…!

理葉「強貪はデメリットが痛いかも、除去札の背徳と魅惑がなくなったらだいぶ厳しいし。背徳もサーチが効きやすいから一枚でいいよ。えっと…ちょっと待ってね。」

スマホに何かを打ち込む理葉さん。
2分足らずで打ち込み終えた後、葉月ちゃんにスマホを差し出した。

理葉「このカードの中で持ってるのはある?」
葉月「えっと…ロードと墓穴の指名者は3枚持ってるよ。あとは…ないかも。」
理葉「そっか…すいません、このカードを探して欲しいんですけど。」

スマホをそのまま私に向ける理葉さん。

すぅ「えっ?」
理葉「大丈夫です、全部買うので。」
円華「抜けてるって人に言うけどこの人が一番抜けてる気がするんだよなぁ…アハハ…。」

言われるがままにスマホを受け取り、カードを探す。驚いたのはルビまで後ろにつけてある事と表記が全て正式な名称で書いてある事だ。大体の人は略称などで指名してしまうことが多く、探すのにも手間取るが、この人は名前まで完全に記憶している。

すぅ「あっさり見つかっちゃった…。」

カウンターに戻ると理葉さんがそのままレジに立っている。

理葉「お願いします。」
すぅ「あ、はい。」

レジを済ませて、カードをそのまま葉月ちゃんのテーブルに持っていく理葉さん。

理葉「こんな感じでいいと思う。」

デッキを並べ直し、再度広げる。

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葉月「増えてるのは…テスカトリポカ、墓穴、ポップアップ…なにこれ、で、でくれ、あらー?」
理葉「宣告者の神巫(デクレアラー・ディヴァイナー)よ。」
シフォン「エクストラデッキもスカルデット、アクセスコード・トーカー、それにこのランク9のカードたちは…。」
理葉「ディヴァイナーは出すだけで天使族専用のおろかな埋葬になって、トリアス・ヒエラルキアに繋がる。ヒエラルキアにリリースされるとヒヨスをリクルートできるからこれ一枚で失落とレベル9が揃うの。トレード・インはより手札交換のしやすいEMポップアップに変えた。ライフコストは重いかもしれないけど葉月ちゃんのスタイルなら問題ないはず。デッキをとにかく圧縮するして蘇生カードを引き込みたいからスカルデットも入れたわ。動かし方は葉月ちゃんならすぐ飲み込むと思うから。簡単に言えば、より制圧に特化したエンジェルリンクね。」
すぅ「すごい…、ガラッと変わってる…。」
葉月「えーっと、手札誘発への対策と、手札交換の方法の改善、ランク9活用の方向にデッキをシフトさせてる感じ?」
理葉「その認識でいいよ。初動も増えて以前より3倍は動けるだろうから。」
円華「理葉、それただの◯ャアだよ。」
シフォン「言わぬがなんとやらですわよ?」

でも、実際にここまで改良できてるなら、相当に強くなってるはずだ。
もしかしたら……。

すぅ「理葉さん。」
理葉「なんですか?」
すぅ「私のデッキも…調整してもらえませんか?」

未だに勝ち星のないこのデッキ、葉月ちゃんや円華さんとの対戦でも露呈したデッキの弱さ。
この人ならそれを改善できるかもしれない。

円華「すぅ君…。」
シフォン「…。」
すぅ「私も皆みたいに戦えるようになりたいんです。私も弱いままだと辛いですし…。せめて、みんなとおんなじくらいには強くなりたいです。」

理葉さんは黙っている。
それから、ふっと柔らかい表情をして彼女は言った。

理葉「…いいですよ。デッキ、見せてもらえますか?」
すぅ「…!ありがとうございます!」

ーーーーーーーーーー

すぅ「これが…私の…?」

テーブルの上に広げられたデッキを眺める。
主要なカードは抜けていないが、数日前まで使っていた状態とは大きく変わっているのは、構築からありありと読み取れる。

理葉「ルートが複雑になってる分、ちょっと扱いづらいかもしれないけど回数を重ねれば扱えるようになるかなと。少なくとも以前のような息切れはし辛くなってると思います。」
すぅ「はい…。」
シフォン「神なんて呼ばれるだけはありますわね。」
理葉「そんなことはないですよ。…あっ。」
すぅ「どうしました?」
理葉「どうしよう、学祭の仕事忘れてた。」

た、大変!

すぅ「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですかそれ!!?」
円華「どうせそんな展開だと思ってたよ。…大丈夫、すぅ君と葉月ちゃんと理葉が没頭してる間にボクがやってたから。」
理葉「流石円華ね。やっぱりなんでもできるじゃない。」
円華「なんでもはできないよ、できることだけさ。あとなんで上からなのかなぁ?感謝の言葉が先だよね普通?」

ギュムギュムと理葉さんの頰をつねる円華さん。

理葉「いひゃいいひゃい…ごめん、ありがとう…。」
円華「分かればヨシ。あと、メールきたよ、…例の案件。」
理葉「ホント?あ、ちょっと待ってて下さい。流石に守秘案件なので。」

円華さんからノートPCを覗かせてもらう理葉さん。

すぅ「学祭の守秘案件…?」
葉月「わたしはなんとなくわかっちゃうけどねー。」
すぅ「?」
葉月「ひみつ。」
理葉「………いいよ、円華。ちゃんと返信できたから。」
円華「よし、じゃあ今日はこの辺りで切り上げよう。お邪魔しました。」
理葉「そうそう、学祭の前日が準備日なので、資材の搬入準備をよろしくお願いしますね。」
シフォン「わかりましたわ。」
円華「もう二週間切ってるからね。ちゃんと準備しておいてよ?」
すぅ「ありがとうございます。」
葉月「わたしも帰るー。」
すぅ「気をつけてねー。」
シフォン「ご来店、ありがとうございましたですの。」

ガチャン。

シフォン「…充実してますわね。」

ふぅと、シフォンがため息をつきながら感想を口にする。

すぅ「そうだよね…こんなに楽しくなると思わなかったなぁ…。」

ここに来てから本当に、日々が楽しい。
ここを紹介してくれた円華さんにも、感謝しなきゃいけないな…。

まい「ホント、よかったねー。あと二人が働いてくれればわたしはもっと楽できるからよろしくねー。」
シフォン「しばき倒しますわよ?当日はしっかりとブースで作業してもらいますからね?」
まい「(´・ω・`)」

3人で笑い合いながら片付けを始める。
葉月ちゃんやロックさん、そのほかにもいろんなお客さんのおかげだ。

すぅ「あ、店じまいしてきますね。」
店のドアを開けて、シャッターを降ろしに行く。
ガラガラガラとシャッターを降ろし振り返るとーーー、

すぅ「なに、これ…!」

シフォンがドアを開けて私のところに来る。

シフォン「すぅ、どうしましーーー、これは…。」

ドアに貼り付けられていたカードボックスのチラシにA4サイズの紙が叩きつけられている。四方が風で揺れていることから、真ん中のみに両面テープを貼ってチラシの上に貼ったと分かる。

すぅ「…『迎舞祭に行くな、伝統ある街の風紀の破壊者になってはならない。』」
シフォン「破壊者って…それただのディ〇ィドですわ…『我々とともに一致団結して、学祭を壊滅させよう。』……しかも最終的に自分たちが破壊者になってますの。」
まい「何かあった?」
シフォン「それなんですけど…店の前にこんなものが…。」
まい「ナニコレ(´・ω・`)」
すぅ「初めてこんなの見ました。」
シフォン「理葉や円華さんたちにも、連絡して聞いてみたほうがいいですわね。」

順調に進んでいたはずの学園祭に刺す影。
何故、誰が、こんなことを。
夜空に立ち込める暗雲の様に、私達の心にも暗雲が立ち込めていたのでした…。

ーーーーーーーーーー

まい「調べてみたけど、同様の張り紙が街のあちこちに出てるみたいね。対象はパンフレットに載ってた出店予定のお店、協賛をしてくれるお店。流石に協賛してくれた大企業とかにはビラは送られてないみたい、警備が多い関係からかしら。」
すぅ「でもこれ、実質脅迫まがいですよね…?」
シフォン「ですわね。…防犯カメラには人が映ってますけど、その後の動向は流石にわかりませんわ。」

ビラが届いてから数日後、同様の張り紙が街の其処彼処で見られる様になり、SNSでも不安の声が上がっている。
『迎舞大学 不審者』『迎舞大 地元と確執』『迎舞祭 終了』等のハッシュタグも並んでしまっている。

シフォン「酷い有様ですわね。」
まい「無関係の人間からすれば、ただの遊び道具よ…気にしてもしょうがないわ。とはいえ、どうしてこんなことになったのかは気になるけど。」
シフォン「理葉さん達、大丈夫かしら。」
すぅ「………。」

円華さん達に連絡を入れてみたものの、対応中との事で返答は帰ってきていない。
このままでは学祭が危ぶまれるのではないだろうか。
と、そんなことを考えた時に、まいのスマホが鳴り出した。

まい「もしもし。」
まだ店内には誰もいない為、わざとスピーカーモードにして私たちにも聞こえる様にしている。

円華「まいさん、今、大丈夫ですか?」
まい「大丈夫よー。」
円華「まずは、先日のビラの件で心配させてしまって申しわけございませんでした。」
まい「そうね、まさかこんなことが起きるなんて私達も予想してなかったから。」
円華「当日のことを踏まえて、こっちでも警備人員を増やしてもらう様にしてる。本格的に警備会社の人たちにも依頼をしたんだ。当面はそれで対応できると思う。」
シフォン「ところで…どうしてこんなことになっていますの?」
円華「それなんだけど…ボク達のキャンパスが建つ前…ほんの数年前の話さ。キャンパスの建設工事への反対活動をしていた人達が居たらしいんだ。」
シフォン「その人達が今回の騒ぎを起こしているって事ですのね。」
円華「確証はないけどね…。」
まい「とりあえず当日には支障はないってことね?」
円華「そう思ってもらっていいよ、それに…学祭側としても、芸能人企画があったりするからそうそう簡単に中止にはできないからね…。」
まい「確かにね…そうなってしまったら、損失はあまりにも大きいわ。」

少なくとも迎舞祭が中止になることはなさそうだ。一安心してもいいのかな。

円華「そう言うわけで、今の所中止はないよ。ただ、当日は十分注意してほしい…。警備とかに当たれるボク達の人数にも限りがあるからね。」
まい「分かったわ。教えてくれてありがとう。」

電話を切るまい。

まい「…ただの学校への嫌がらせだと思うけど、十分気をつけたほうがいいね。」
シフォン「そうですわね。」
まい「さ、仕事に戻りましょ。私はサボるから。」
すぅ「堂々とサボる宣言をするあたり流石ですね…。」

若干の呆れを感じつつ作業に戻る。
すると、今度は自分のスマホが振動を始めた。円華さんの電話番号だ。

すぅ「はい。」
円華「ごめんね、すぅ君。…今、一人になれる場所はあるかい?」
すぅ「あ、はい。」

円華さんに言われ、休憩室に入る。

すぅ「大丈夫ですよ、どうぞ。」
円華「今から話すことは…ボクの憶測だ。確定的な証拠がない以上は、まいさんやシフォンさんには話せない。だから…すぅ君にだけは話しておくよ。」
すぅ「私だけ…ですか?」
円華「さっきの話、何かおかしいと思わなかったかい?」

えっと…大学の設立時に反対活動をしていた人たちが数年経った学祭のタイミングで反対活動をしていて…?

円華「何か変じゃない?」
すぅ「…あっ。そもそも、設立から数年間のタイムラグがあることがおかしいってことですか?」
円華「その通り。普通、こういった活動が一回沈静化してしまうと再燃するには何かしらのきっかけが必要になる、言ってしまえば起爆剤が必要だ。けど、開校してからの数年間、此処はとりわけ大きな問題が起きたわけではない。」
すぅ「つまり…?」
円華「そうなると、不祥事以外の別の理由になる。」
シフォン「すぅー!そろそろお店始めるですの!」

シフォンの呼び声が聞こえる。

すぅ「あっ、はーい!円華さん、すいません。また後で…。」
円華「わかった…でも本当に気をつけてくれ。今回の騒ぎは…下手すると、」

シフォンがガチャンとドアを開けた。

シフォン「何してるですの?」
すぅ「あ、ごめんなさい、忘れ物してて…。」

スマホの通話はすでに落ちていた。

シフォン「早く戻りますわよ。」
すぅ「はーい。」

カウンターに入り、準備に取り掛かる。

(本当に気をつけてくれ。今回の騒ぎは…下手すると…)

円華さんの最後の言葉が頭に木霊する。
ただの学園祭だ、そんなことまでするわけが…と思う自分がいる傍、背中に這い寄る悪寒を感じながらも仕事をしていた。


そして…その日がやってきた。


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冴えないデッキの鍛え方 Fes③に続く
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